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やまなみ5月号

カリフォルニアの松    校長 堀井 重樹

 

堀井重樹校長
平成14年4月から文部科学省より本校へ派遣。大阪府教育委員会所属。

 

 アメリカに来て驚いたことの一つが松柏の多さでした。日本の品種で言うならば、黒松やそれに近い五葉松、そして柏槇類がこのあたり一帯に群生しています。強風がよく吹くのか、吹流しの形を多く留め、大地や岩を押さえつけている様が印象的でした。本来は、アジア系の常緑樹かと思っていましたが、広辞苑によれば、北半球の温帯を中心に100種類ほどが分布するとあります。松は訓音では「マツ」と発音し、「人を待つ」から来ているとも言われています。東アジアから南アジアにかけての地域に残る巨木に絡んだ降臨伝説は、ひょっとするとこのカリフォルニアの地にも存在するのではないか。遥かなる先史時代の壮大な海洋民族による大移住が、この地にも行われていて、先住民族の説話として残っているのではないか。そんな予感さえ感じさせます。

 サンフランシスコの街中を歩いていると、実に多くの人種に出会います。通りすがりの新参者には、出会うどの笑顔も輝いて見え、強い意思に裏付けされた夢を追っている人達にも思えました。この地に、最初に根を下ろした人たちの志や努力に思いを馳せながら、カリフォルニアの松のことを重ねて見ました。 

 小学生の頃、若い担任の先生は、教室の壁に『大志を抱け』と張り紙を張り、人間が生きていくうえで夢や志を持つことの大切さを語ってくれたことがあります。この言葉は、アメリカの教育家William Smith Clarkが札幌農学校で学生たちに向けた訓育ですが、それを引用しながら、真顔で熱く語られた様子を思い出します。『志す』は『心指す』であり、心がその方向に向かう、成し遂げようとする目標を心に決めるという意味ですが、イチローや中田英寿の例をのぞき、この言葉が最近の若者の間では死語になりつつあります。全ての若者に当てはまるというわけではありませんが、人生設計を持たない若者が増えつつあるのもまた事実です。社会が行き詰まったのか、私たち大人に夢がないのか、大きく変動する時代の中で考えさせられる事象です。より豊かに生きるにはどのような生き方をすればよいのか。大げさに言えば、人生をどのように全うするのか。これはこれからの教育の大きな課題でもあります。

「ゆとり教育」が叫ばれる昨今、現地校と補習校の学習課題を抱えながら、週六日の授業日を懸命にこなす子どもたちに脱帽いたします。厳しい環境の中で、頑張り続ける姿に、今の日本の子どもたちに欠けている何かを感じます。この子たちの努力が報われぬはずがない。後々どこかで必ず実を結ぶに違いない。そのためにも、我々教師は、真の『学ぶ喜び』を教え、子どもたちの応援団にならねばと思いを新たにしました。

『松柏の志』。私の好きな言葉です。厳しい自然と対峙しながらも、葉色一つ変えず生き続ける松の姿から、多くのことを学びます。カリフォルニアの松に、本補習校の校歌に謳われる『いつか世界のかけ橋に』の歌詞を重ね合わせながら子どもたちを育んでいきたいと思います。

2002年5月

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